障害者福祉が抱える問題点とは?解決に向けて事業所としてできること

障害者福祉サービスのニーズが増加傾向にある今日では、障害者福祉が抱える問題点も多様化しています。障害者福祉に関わっていくなかで、どのような問題点を抱えているのかを知っておくと、サービスの質の向上やサービスの拡充につながる可能性もあります。そこで、この記事では障害者福祉が抱える問題点と対策について解説します。さらに、問題点を解決するために事業所としてできることについても紹介します。

障害者福祉の最大の目的は「障害者の自立支援」

障害者福祉の最大の目的は「障害者の自立支援」です。障害者支援の基礎となる障害者総合支援法では、障害があっても自立した生活が送れるように支援することを目的としており、以下のような6つの理念を掲げています。

  1. 障害の有無にかかわらず平等に基本的人権を持ち、かけがえのない個人として尊重されること
  2. 障害の有無で分けられることなく、人格と個性を尊重しながら共生社会を実現すること
  3. 障害者(児)が可能な限り身近な場所で必要な日常生活や社会生活を営むための支援が受けられること
  4. 社会参加の機会が確保されること
  5. どこで誰と生活するかを選択でき、地域社会で他の人々との共生が妨げられないこと
  6. 障害者(児)が日常生活や社会生活を営む上で障壁となるものの除去に資すること

また、2018年の障害者総合支援法の改正では、障害者の生活の場を施設などから地域社会へ移行できるよう、「生活」や「就労」のさらなる支援充実や障害児支援の多様なニーズへの対応の支援拡充が図られました。

障害者福祉が抱える4つの問題点

障害者のニーズが増加していくなかで、障害者福祉が抱える問題も多様化してきています。現在、特に懸念されている4つの問題点について、詳しく見ていきましょう。

障害者に対する差別や偏見

障害者に対する差別や偏見は、なかなか解決しない問題です。国は、障害者差別解消法を制定し、差別解消に向けてさまざまな施策を行い、差別や偏見の問題に取り組んできました。しかし、障害者に対する理解や配慮は、いまだ十分とはいえません。実際には、障害者への知識不足から、障害者の社会参加や自立が阻まれているのが現状です。

障害者の経済的な自立の難しさ

障害者の経済的な自立が難しいのも、障害者福祉の大きな問題といえます。障害者雇用率は毎年上がっており、就労支援から一般就労への割合も増えてきています。しかし、就労継続支援A型とB型に注目してみると、一般就労への移行はやや横ばいとなっているのが現状です。また、賃金水準は上がっているものの、B型の賃金はまだまだ低い状況です。令和3年度におけるB型の平均工賃は、月額16,507円と自立には程遠い金額といわざるを得ません。このように、障害の程度が重くなるほど、経済的な自立は難しい状況となっています。

障害者に対する支援体制が不十分

障害者のニーズに合わせて、国はさまざまな支援体制を整えています。しかし、まだ十分ではありません。特に、障害者の地域移行・地域生活を支える地域生活支援拠点においては、整備は少しずつ進んできているものの、必要量には全く足りていません。地域の状況はさまざまであり、地域によっては緊急時の対応に重点が置かれているところもあります。そのため、障害者の自立生活にむけた自立体験の機会確保の取組まで到達できていないのが現状です。

バリアフリー環境の整備が追いついていない

障害者の地域移行を進めていくためには、一人ひとりの障害特性に配慮された住まいを確保する必要があります。これまで、公共施設や職場といった多くの人が利用する建物では、バリアフリー環境の整備が進められてきました。しかし、住まいについては、まだまだバリアフリー化が追い付いていません。つまり、障害者の「地域で自立生活を送りたい」というニーズを満たすために必要な住まいが足りないというのが実情です。

障害者福祉の問題点に対する政府や社会の取り組み

障害者福祉の問題点に対し、政府や社会では次のような取り組みを行っています。

障害者への理解を深める啓蒙活動

障害者福祉の抱える問題点を解決するためには、障害者への理解を深める必要があります。国は、障害者への理解を深める機会として、毎年12月3日から9日までを「障害者週間」とし、関係表彰の実施や作品展、ワークショップなどを開催し、啓蒙に努めています。また、全国社会福祉協議会に設置してある全国ボランティア・市民活動振興センターへの補助を実施し、ボランティア活動の推進や各種啓蒙活動が円滑に行えるよう支援しています。

障害者の就労支援を促進

障害のある人が生涯にわたり自立して社会に参加していくためには、就労は欠かせません。国は、雇用する企業に向けた雇用拡大施策や、就労支援の拡大、障害特性に応じた雇用施策など、障害者の就労支援を推進しています。このうち、就労支援の拡大では、ハローワークが障害者向けチーム支援や精神障害者雇用トータルサポーター、トライアル雇用などを実施しています。また、他の機関では支援が難しい障害者を中心とした支援を総合的に行う地域障害者職業センターや、障害のある人の身近な地域での就労支援を行う障害者就業・生活支援センターなどもあります。このように、障害者の就労支援については、支援体制を拡大することで推進が進められています。

障害のある子どものための教育支援

障害のある子どものための教育支援では、将来自立した生活を送れるような支援が実施できるための枠組みを作っています。例えば、小学校や中学校では以前より実施されていた通級指導が、2018年度からは高校でも実施されるようになりました。また、障害特性に応じた指導上の配慮を充実する取り組みや、キャリア教育の充実や生涯学習への意欲向上といった自立と社会生活に向けた教育内容がカリキュラムに盛り込まれています。さらに、障害を理由に高等教育などへの進学の機会を失うことがないような提案もされています。具体的には、出願資格の改善や合理的配慮の提供による公平な入試といった内容が、国から学校側に求められています。

バリアフリー化の推進

バリアフリー化は、これまで公共施設や交通機関などのハード面を中心に行われてきました。近年は、ハード面だけではなくソフト面のバリアフリー化についても推進に取り組んでいます。バリアフリー法では、2021年度以降のバリアフリー目標として、聴覚や知的、精神、発達障害に関わるバリアフリーの進捗状況の見える化や、心のバリアフリー化の推進を掲げています。

障害者福祉の問題点に対して現場ができる3つのこと

障害者福祉の問題点を解決するために、現場である事業所ではどのようなことができるでしょうか。3つ紹介します。

障害者の自立支援に向け関係機関と連携しよう

障害者支援では、さまざまな事業所や人が関わります。障害者が望む生活を実現するためには、関係機関と普段から情報交換を行い連携しておくことが大切です。もし、自社で対応できないことが起きた場合でも、普段から他機関とつながっておけば、解決に向けての選択肢が広がる可能性が高いでしょう。また、普段から情報を共有しておくことで、スピード感を持って解決に動くこともできます。

支援の質を高めるための人材教育を行おう

障害者の自立支援を行うためには、支援者側の質の向上は必要不可欠です。社内外の研修への参加や資格取得への支援など、人材教育を積極的に行いましょう。社外研修の参加者が、研修で得た知識をフィードバックする機会を作ると、職員全体のスキルアップが期待でき、サービスの質の向上につながります。

地域と交流し差別や偏見を減らそう

人は知らないことについて不安を抱きやすいものです。まずは、地域の人に障害者や事業所について知ってもらうことから始めましょう。具体的には、地域イベントへの積極的な参加や、地域に向けのイベント開催を通じて、地域との交流の機会を作るなどがあります。地域と交流し障害者や事業所について知ってもらう機会が増えるほど、差別や偏見を減らすことにつながります。

障害者福祉の問題点からニーズを把握してよりよい支援につなげよう

障害福祉サービスの事業所は、障害者と直接かかわりながら、支援やサービスを提供する役割を果たします。障害者福祉の問題点を知ることは、障害者のニーズを把握することにつながります。それによって、より適切で質の高い支援の提供することが可能です。

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