究極の”自立支援”に、感性と人間力を鍛えよう!

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介護コラム

井上 由美子 氏

NPO法人高齢社会をよくする
女性の会 理事
安藤桃子監督の『0.5ミリ』。
ヘルパー映画と思いきや、ヘルパーを糧としている主人公と周りの人たちとの触れ合いがもたらす“人間と人生”の物語。

主人公サワちゃんは家庭も住まいも財産もなく、際どさも辞さない手練手管でヘルパー技術を武器に他人の家に入り込み寝蔵と食い扶持を得る。

その手段は、孤独な老人という狙った獲物への、“やさしさ”でも“取り入る”のでもなく、お節介から始まる。
例えば一つのエピソード。
ある老人の、自転車泥棒や悪戯を見つけ「警察に連れていく!」と脅しつつ近づき、寝食を得る。
老人が詐欺に合いそうになると身を張って守る。
そう、正義感も生き様も紛れもなく本物だ。
結局、その老人は、自分の宝物のクラシックカーを主人公に渡して自ら有料老人ホームに入る。
サワちゃんのケアは、自らも楽しみながら、老人の生きがいを呼び覚ます。
彼女自らの生きることへの貪欲さ、真摯さからでてくる、まさに対等な立場でなされる究極の自立支援だ。
彼女の類まれなコミュニケーション能力も、「学び」という観点からとらえるならば、テクニックを学ぶのではなく、感性や人間力を磨くことから身に付くものであることが示唆される。
 
『0.5ミリ』は、数年前爆発的にヒットしたフランス映画『最強の二人(ケアについて何の経験もない無教養の黒人が、食うために、相当な教養人で大富豪、首から下は麻痺状態の初老男性のケアをする話)』と通じるものがある。
これまでプロの看護師が1週間と持たなかった気難しい要介護者が、無教養極まりない、下層階級の黒人男性には心を開き、生きる喜びを取り戻す。
そこには黒人介護士の、無遠慮な同情から生まれる一緒に楽しむ、冒険する、という諂いのない姿勢があった。
 
二つの映画に共通する、豊かな感性、人間力に裏付けられた究極の自立支援に私たちは感動するのだと思う。

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