潜在的なニーズこそ

障害福祉サービスの日中活動はニーズに合わせて、さまざまなものがある。

そのうちの一つである生活介護事業所は介護ニーズが高い場合が多く、作業活動はあるものの仕事として工賃を支給している事業所は多くはない。そんな生活介護事業所でのエピソード。

 

毎年、特別支援学校に通う生徒や保護者が卒業後の進路選択のため見学に来る。

あるとき、見学に来た保護者からこんな話しがあった。

「支援の程度が高くても働く経験をさせたい。働いて収入を得るということが、障害があるとなぜこんなにも遠いのでしょうか。」

実は私たちの生活介護事業所では過去に工賃支給をするか検討したことがある。

しかし、既存利用者の保護者からは、作業効率が最優先になり介護や関わりが疎かになるのを心配する声が多かった。

また、「生活介護事業所だから」作業に対する工賃支給はなくてもよいと多くの職員は半ば当然のように考えていた。

主目的は作業(仕事)の事業所ではないから無理をすることはない。でも、本当にそうなのか。

「なぜこんなにも遠いのか」というその保護者の声は、再び私たちに考える機会を与えてくれた。

進路先として、福祉サービス事業所は通える地域内にそれほど多くはない。

工賃支給がある別の事業所を選べばよいと言えるほど選択肢は豊富ではなかった。

本当は支援の程度が高くても働くやりがいを感じたい。

これまで多くの利用者や保護者もあきらめていただけなのであれば、私たちは挑戦したい。

そのようにして、役所や周囲を動かす力が生まれていった。

その後、企業とコラボしたアート作品が国際的な賞を受賞したり、美味しい人気商品が生まれている。

介護的なニーズと働く喜びは両立している。

制度で決まった枠組みを狭く解釈してやっているだけでは、本当に必要な福祉ニーズに対応できない。

潜在的なニーズこそ福祉の質を高めるきっかけになるはずである。

齋藤 正

  • 就労移行支援グランドマーリン所長
  • 武蔵野大学しあわせ研究所客員研究員
  • 武蔵野大学通信教育部非常勤講師
  • 東京都立大学人文社会学部非常勤講師

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