噂の真相

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介護コラム

篠崎 良勝 氏

聖隷クリストファー大学 准教授

介護職員の間に広がる〝うわさの真偽〟を確かめる機会があった。
それは、介護関係の研修会の講師の仕事である地方に出向いた際、懇親会で8人の介護職員と話をした時のことだ。
「皆さんが介護の必要な状態になったら、自分の働いている施設で介護を受けたいと思いますか」と私は尋ねた。
すると、全員が「受けたくない」と言い切った。
どの施設も入所希望の待機者が百人単位でいる〝人気施設〟だ。
「ウチの施設の食事はまずい上に、介助が乱暴」
「ウチはすぐに胃に穴(胃ろう)を開けられる」

「女性利用者の入浴介助を男性職員がする」
「私たちの施設は看護職と介護職の仲が悪くて、責任のなすり合いが絶えない」
など次から次へと真情報が溢れ出てきた。

「じゃぁ、どこなら入りたいですか?」と尋ねると、3秒ほどの沈黙の後に、「入りたい施設ねぇ、ないなぁ」とある介護職員が言う。
「そうだねぇ、ないよねぇ」と7人の相槌が入る。
このような職員の声を施設で暮らしている本人やその家族は知らない。
いや、言われなくてもわかっている本人や家族も少なくないはずだ。
ただ、わかっていながら口に出せずに我慢しているのだろう。
なぜなら、施設に要望を言えば、苦情と置き換えられ、明らかに足元をみた言動で振舞われ、その後は疎まれた肩身の狭い存在として暮らし続けなければならないからだ。
この状況を知っているからこそ、「入りたい施設ねぇ、ないなぁ」という本音が、介護職員から漏れてしまうのだろう。

利用者の家族からの苦情や職員の声と向き合うことを恐れるがあまり、耳触りのいいことばかりを言う仲間だけで周囲を固めた施設は裸の王様と化したも同然だ。
「私たちの感覚ってどこでも同じなんじゃないの」とある介護職員がまとめた。
残念なことではあるが、〝噂〟はあながち間違いではないようだ。

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