【第1章】私の考える介護の質~胃瘻(いろう)をとりまく生活の質~

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介護コラム

森山 千賀子 氏

白梅学園大学 教授

介護保険法の改正(2011年6月15日成立)にともなう社会福祉士及び介護保険法の改正により、2012年4月からは、一定の研修を受け、一定の要件に適合し都道府県知事に登録した事業所等で働く介護福祉士や介護職等に対しては、喀痰吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)と経管栄養(胃瘻、腸瘻)の行為が、法律に違反しない(実質的違法性阻却)という運用が認められました。
一方、2012年1月28日には日本老年医学会において、「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する「立場表明」2012が出されました。

これによると、「最善の医療およびケア」とは、「単に診断・治療のための医学的な知識・技術のみではなく、他の自然科学や人文科学を含めた、すべての知的・文化的成果を還元した、適切な医療およびケア」であり、「生活の質(QOL)の高い状態とは、主観的な幸福感や満足感が高く、身体的に快適な状態」であるとされています。

これらのことを考えると、例えば栄養をとる方法として胃瘻を造る際の意思決定や合意決定はどのように行われているのかが気になります。

医師に「口から食べられない、在宅で介護するなら胃瘻ですね。」と言われても、胃瘻にしない選択もありますし、胃瘻を造ったとしても、朝は胃瘻で栄養をとり、昼と夜は嚥下の訓練をしながら口から食事を摂ろうとしている方もいます。また、先輩ヘルパーとALS(筋萎縮性側索硬化症)の方のお宅を訪問した際に、その先輩ヘルパーは「今日はお嬢さんがつくったかぶのスープです。かぶが好物とうかがいました」といって、形のあるスープを利用者の方に見て頂いてからミキサーにかけていました。

つまり、胃瘻を造ることがその方の生命維持にとってどうかでなく、その人の生活や人生のありようから、その選択を尊重しどう寄り添えるかが生活の質を左右すると考えます。

介護職の立ち位置の重要性が問われているように思います。

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